Humming from Pandora’s box ~018~2008-12-29 Mon 16:07 シェリーは慌てて外へ飛び出そうとしたが、突然真っ暗な天井裏で何かが一斉に動き出す。 (シュルシュルッ!) 「はっ!?これはあの蔓植物!」 姉に勝るとも劣らない俊敏性を誇るシェリーも、暗闇の上に狭すぎる屋根裏ではその力を発揮できない。 「うっ…くぅ…」 彼女はあっという間に身動きが取れなくなってしまった。 「あら?てっきりネイさんだと思っていたけど、ちがったのね?まあ私は誰でも構わないんだけど、今回の実験に使うマウスにしちゃちょっぴり若すぎるかしら?」 天井の板を外して屋根裏を覗き込み、懐中電灯でシェリーを照らす美沙。 その表情には怪しい笑みが浮かんでいた。 ★ ★ ★ 「早いはや~い!」 電車内のシートで外に向かって【おすわり】の格好で過ぎ行く景色を見ているラム。 「こら、もうちょっと人間らしくしてへんと、変装の意味がないやろ!」 ベルがラムの耳をぐいっと引っ張る。 「そう言うお前もちゃんと人形のフリしてなきゃダメじゃんか!」 ジンがベルをがしっと掴み、ラムの持つバッグに押し込む。 「こ、こら!苦しいやんか!」 「しかたないじゃんか! こっちじゃまだエルフだって物珍しく見られちゃうんだから…まして合成獣(キメラ)や妖精なんか見つかったらすぐに人だかりができちゃうぞ。」 まだお互いの世界を行き来するには厳しい審査が必要で、ごく一部の人間及び亜人間(デミヒューマン)しか通行を許されていない現状では、その存在が知れ渡っているとは言えエルフですら人目を惹いてしまうのだ。 法整備が整う以前に紛れ込んだ人型モンスターの一部が人間界に紛れ込んでいる事もあるようだが、それもまた極めて稀な話である。 「そうですよ。気を付けて下さいね…うふ♪」 ジンの真横の席から突然女性の声がする。 「お前は…メ、メメ…」 「…メ、メンデレビウム?」 大きなバスケットを膝の上に置き、笑顔でそう聞き返したのはメアリーであった。 「ちゃうわ!なんのこっちゃ。」 「あ、メンデレビウムはですね…元素記号Mdの超ウラン元素で、名前の由来はロシアの化学者【メンデレーフ】に敬意を表して付けられ…」 「そんな説明誰も聞いとらんわっ!」 (バシッ!) 「うきゃん!…痛いですぅ~。」 飄々とした顔でメンデレビウムなる物の説明をしていたメアリーに、初めてベルのハリセンがヒットした。 思いがけぬクリーンヒットに、ベルは一瞬驚きの表情を見せ、やがてその場にうずくまると肩をわなわなと震わせる。 「や、やったで!ついにやったで!!…ジン、見たか?ついにメアリーにツっ込みくれたったでぇ!」 握り締めた拳を振り上げ、やおら立ち上がるとその周りをぱたぱたと飛び回り、ベルはその喜びを体中で表した。 しかしその騒がしさに周りの人間がジン達の方を気にし始め、飛び回る妖精を見つけると女子高生らしき女性が黄色い声を上げる。 「きゃ~っ!妖精じゃない!?」 「うっそぉ、どこどこ?」 たちまちジン達の席の周りには人だかりが出来上がる。 それに気付いたベルが動きを止め、人形のように固まってみるが時は既に遅かったようだ。 「きゃ~、ちょっとだけ触らせて!」 「写メ撮っても良いですか?」 「サイン下さい!」 「そそそ…それ僕に売って下さい。」 ドサクサに紛れワケの分からない事を言う人間も現れ、収拾がつかなくなってしまった。 「サインは一列に並んで順番にお願いします…写真は心霊写真になりますがよろしいですか?…うふ♪」 メアリーはそう言うと、首だけを180度回転させ、人だかりの方へと振り向く。 その顔は先程のツっ込みのせいで眼鏡が割れ、鼻血を吹いて血の気の引いた青白い顔をしている。 「っきゃぁ~!」 「うわぁ!ゆ、幽霊だぁ!」 血まみれのメアリーに驚愕し、人だかりは蜘蛛の子を散らすようにあっという間に霧散していった。 「あら?どうしたんでしょう…うふ♪」 とぼけた顔で辺りを見回すメアリー。 その車両にはジン達を残して誰もいなくなってしまった。 スポンサーサイト
テーマ:自作連載ファンタジー小説 - ジャンル:小説・文学 |
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